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演奏家を目指す方へ

若いあなたへ

 長い間、若い学生たちや、まだ初々しい演奏家にレッスンをしてきて、一番悲しいのは、輝かしい将来のありそうな人が、壊れて、あるいは潰されていくのを見ることであった。自分のせいで、先生のせいで、あるいは周りのせいで、駄目になる理由は色々あるが、結果としては、声が出なくなり歌えなくなる。若くて身体や技術が未熟なうえに、経験も乏しいのに、とりかえしのつかないことになるのではないかと、遠目にはらはらしながら祈るように見ていることがある。頭の隅にでも、次のようなことをとどめておいてほしい。 

 もしも、あなたがまだ初心者であれば、まず間口を広くして、何にでも興味をもって勉強することだ。歌曲もオペラアリアも、あなたに無理のないものを慎重に選んで、言葉も何語でもやってみてほしい。イタリアオペラだけとか、ドイツ歌曲が専門とか決めるのは、だんだんと自然に気持ちが向いていく中で、対象を少しずつ絞っていけばよいのである。また、テクニックをしっかり身につけてほしい。二十代や三十代は、地道に勉強を重ねて、テクニックを充実させるべき時期である。そしてそのテクニックを使いつつ、歌っていけばよい。しっかりした基礎的なテクニックもなしに、有名な歌手の歌い方を真似たり、難曲や大曲に挑むのは、ばかげた危険なことである。小さな器にたくさんの水を入れるのと同じで、こぼれてしまって失敗する。テクニックを超える大曲ばかりを歌いつづけたために、声を使い果たした人を、私は何人も知っている。これではせっかくの才能も、花開く間もなく散ったようなものだ。この間違いを犯す人は相変わらず多いので、ぜひ気をつけてほしい。

テクニックを十分に体得した後なら、そのテクニックの範囲で歌うかぎりは、たとえ大曲に挑んでも壊れたりはしないはずである。あなたの身体や技術が、まだそこまで高まっていないのに、世界の第一線で活躍している人と同じ曲を、同じくらい大きな声で歌うなどという、危険なことはぜひ控えていただきたい。そして四十歳くらいになったら、そこで初めて声も使い、テクニックも使うというくらいにする。それまでの若い間は、声を節約して、大切にしてほしい。充分若いあなたは、今は少しぐらい無理をしても、すぐにまた回復して何のダメージも残さないかもしれないが、それも二度三度のことで、長く無理を続けると誰の助けを借りても、もう元にはもどれなくなることを、肝に銘じておいてほしい。

あなたが、もうすでに演奏活動を始めているくらいの年ならば、どうぞ焦らないで、と申し上げたい。コンクールで賞をとったり、オーディションで抜擢されたりしても、自分を過信せず、見失わないで歌っていってほしい。賞をとったから、何でも歌えると思い込んだり、逆に見立つためにはこの曲を歌うのがいいからと、声質に合わないものを歌って、目の前のキャリアを積むことだけに焦ってはいないだろうか。

あなたが、「この人はいい歌い手だ」と見込まれて、どんどんいろいろな仕事があるなら、なるべく断らないように心がけなければいけない。ということはつまり、断らなくてもいいように、練習やレッスンを十分受けてレパートリーを増やし、また健康に注意して、声やテクニックもよくコントロールしてほしいという意味である。しかし、その一方では、断る勇気もまたもっていてほしい。それは、自分に合わない曲や役柄を指定されたり、自分の能力を越えたものを要求されたときなどである。断る勇気は、若いときこそ大切なのである。

たくさんの演奏会に出て、華やかに歌っていた人でも、それが自分を育てる機会にならなければ、逆に自分をすり減らしてしまうことがある。自分一人でやってきて、先生のいない人にはよくあることである。やはり自分自身で自分をコントロールすることの難しさを認識して、誰か信用のおける人に聴いてもらって、方向を示してもらわなければ、道を踏み外すことが多い。一人でもできると、過信しないことである。

 たくさんの演奏会に出て、華やかに歌っていた人でも、それが自分を育てる機会にならなければ、逆に自分をすり減らしてしまうことがある。自分一人でやってきて、先生のいない人にはよくあることである。やはり自分自身で自分をコントロールすることの難しさを認識して、誰か信用のおける人に聴いてもらって、方向を示してもらわなければ、道を踏み外すことが多い。一人でもできると、過信しないことである。

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