独眼流亮孔明の独日おもしろ異文化論 第3回

ドイツでは、「スープは冷めるのをじっと待って、音を立てずにスプーンで静かに口に運びなさい」と、厳しく育てられます。熱いものをズルズルとすする行為は、かなり行儀の悪いこととされていて、大人も子どもも、スープはとても静かに飲みます。
なぜここまで厳格なのか。たどっていくと、狩猟民族としての歴史に行き着くように思います。かつて屋外で火を焚くと、煙や匂いで獲物が逃げてしまい、狩りがうまくいかなくなります。そのため、熱い料理を日常的につくって食べる習慣自体が、もともとあまりなかったのです。洞窟の中で明かり代わりに火を使っていた大昔の人々のように、火は限られた場面でしか使わないものでした。私がドイツにいた30〜40年前でも、テレビや雑誌で「せめて週に一度は温かいものを食べましょう」と特集が組まれるほど、温かい食事が日常にはまだ根づいていませんでした。
だからこそ、熱いスープをすする機会自体が珍しく、当時、日本のアジア料理店でドイツ人がラーメンをすすると、周りから露骨に嫌な顔をされたものです。今はフランス料理やイタリア料理の影響で温かい料理も増え、ドイツでもラーメン店が大人気ですが、「静かに飲む」という感覚だけは根強く残っています。
一方の日本は農耕民族として、昔から温かいものを日常的に食べてきました。お蕎麦を「すする」のも、空気と一緒に香りや味を引き立てるための、れっきとした食べ方です。もっとも最近の日本では、ヨーロッパ式のマナーが広まり、「ズルズル音を立てるのは行儀が悪い」と感じる人も増えてきました。同じ「熱いものをどう食べるか」でも、根っこにある発想がまるで違うのだと、私は感じています。
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